論文も提出して、仕事もひと段落した。
すると、暇ができる。
暇ができると俺はロクでもないことを考え出す。
今日はそんな日だ。
学校を適当に切り上げて、部屋に帰っても何もやれない。
何を行動すればいいのかわからなくて、イライラする。
しばらくイライラすると、次にはボーっとする。
ふと部屋を見渡すと、かなり物が散乱してる。
でも片付ける気にならない。
片付ける理由が見つからない。
典型的な駄目人間の思考に陥ってるのがわかった。
ほら、やっぱりロクでもないこと考えてる。
しばらく散らかった部屋を呆然と眺めてこんなことを考えた。
この部屋に住んで5年経つ。なんだかよくわからないけれど、この部屋は5年前のあの日に契約してから俺の部屋になった。高校の友達に引っ越しを手伝ってもらったときのことは鮮明に覚えてる。パイプベッドと床にそのまま置いた新品のテレビ、まぶしい蛍光灯、真っ白な壁紙。窓から見える景色も何もかも新鮮で、スーッと澄んだ空間の中に何かが始まる予感が詰まってた。
今の部屋はどうだろう。全てのものがくたびれてる。床にそのまま置いてたテレビも、ずいぶん歳とった。まぶしかった蛍光灯も、ゆったりと照らしてるし、真っ白だった壁紙は一時期部屋の中でも煙草を吸ってたおかげで落ち着いた。窓からの景色にはもう何も感じない。もう何かが始まる予感は、ここにはない。
この街で出会ったあの友達あの恋人は、今ではもう違う街に行っちまった。学校に行っても、5年前の俺みたいに目がキラキラしてる奴らばかりで、もう俺の居場所じゃない。それなのに俺はくたびれた物に囲まれて未だにダラダラとこの街にいる。古い馴染みもよいけれど、それだけじゃ満足できない。想い出に囲まれてゆったり生きるなんて器用な真似は出来ねぇし。昔から飛び回ってないと駄目なもんで。
今の部屋には既にエンドロールが流れて始めてる。あと1年は住むんだけど、来年は史上稀に見る早さで過ぎ去るってことぐらい予想が付く。すぐにエンドロールは終わる。そんで、人生第2章へ、だ。そう考えてたら、不思議と散乱してた物を片付けるのが苦じゃなくなった。いろいろ物をまとめた。あれだ、ちょっと早いけれど、引越しの準備だ。荷を造れ、荷をまとめて出て行くぞ、この街から出て行くぞ。
魔女の宅急便でキキは言った
「落ち込むこともあるけれど、私、この街が好きです」
5年後、キキはタバコの煙をふーっと吐き出すと、こう言った
「好きってのは必ずしも留まる理由にはならないんだよね」